東京地方裁判所 昭和31年(ワ)6677号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は本件二戸建一棟の家屋の各一戸づつを被告両名に賃貸していたが、右建物は終戦直後のルーフイング葺バラック建築で改築の必要等があるとし、改築工事中被告等が一時移転すべき場所を提供したにかかわらず、被告等がこれに応じなかつたので、昭和三一年一月下旬解約の申入をし、かくて被告等に対し右解約申入による賃貸借の終了を原因として各占有部分の明渡と昭和三一年八月以降明渡義務の不履行による損害賠償各自一カ月三、〇〇〇円の割合による金員の支払とを求めた。被告等は、解約申入につき正当事由の存在を争つたほか、各自造作買取請求権及び必要費、有益費償還請求権を有するから、その支払を受けるまで本件建物を留置すると抗弁した。
判決は、原告の解約申入につき正当事由あることを認め、かつ被告等が必要費及び有益費償還請求権を有することを認定して、その支払を受けると引換に家屋を明渡すべき旨を判示したうえで、原告の損害賠償請求の点について次のように判断している。曰く、
「次に原告の金銭的請求につき考察するに、被告両名の賃借権が昭和三一年八月末日までの間に消滅したことは前段認定のとおりであるが、同年九月一日以降はその有する留置権に基いて各賃借部分を占有しているものであることも前に認定したところであるから、被告等の占有は原告の所有権を不法に侵害するものではなく、従つてこれによる損害を賠償する義務を負わない。然しながら、被告等が本件建物を各使用することは留置権の行使としての占有と不可分なものとして許容されるところではあるが、その使用自体は権利行使の本来の内容をなすものではないから、所有者たる原告の損失において法律上の原因なくして使用利益を享受し、賃料相当の利益を得ているものと解すべく、かく解することが衡平の原則上正当である。而して原告は本件建物使用の対価を損害賠償として請求しているのではあるが、もし右見解が容れられないときに備えて、これを不当利得としてもその返還を請求する趣旨であると解するのを相当とするから、被告等はそれぞれ昭和三一年九月一日以降各占有部分の明渡済まで一カ月金三、〇〇〇円の割合による不当利得を原告に返還すべきである。」